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『戦火の馬』の裏話

マイケル・モーパーゴは、アイドルスレイにあるパブで飲んでいた第1次世界大戦のある退役兵と会いました。その退役兵はデヴォンで小作農として馬を使って畑仕事をした事のある人でした。そのあと、モーパーゴは、世界大戦で世界中が苦しんだ話を馬の目を通して語る話を考え始めましたが、本当に書けるかどうか自信がありませんでした。
モーパーゴは、第1次世界大戦で騎兵隊にいた、別の村人、バジェット大尉とも出会い、その村に軍隊が馬を買いにきたことを覚えているさらに別の村人とも会いました。モーパーゴは、『戦火の馬』の献呈の辞で、3人をアルバート・ウィークス、ウィルフレッド・エリス、バジェット大尉として感謝を述べています。

モーパーゴは、妻と共に、街の子どもたちが1週間田舎の農場でクラス慈善事業「街の子供たちの農場」を始めました。2010年12月にBBCのラジオ番組でインタビューを受けたモーパーゴは、『戦火の馬』を書きあげることができると自分に確信させた「街の子供たちの農場」でのあるできごとについて語っています。

「何年も何年も何年も前に、ビリーという名の少年がバーミンガムから農場に来たのですが、付添いの先生方はその子が吃音症だと忠告してくれたのです。そしてその子に直接何かを聞かないようにしてくれ、その子は話せないので、話すように仕向けられたらこわがってしまうというのです。先生方が言うには、その子は2年間学校にいるのに一言も話したことがないので、その子と直接話さないでくれ、そうしないと、バーミンガムまで逃げかえってしまうからというのです。バーミンガムはデヴォンからは遠いので、先生たちはそんなことはおきてほしくないのでした。そこで、私は言われた通りにし、離れたところで後ろから見守ることにしたのです。そうする中で私はその子が、全く言葉を発しないものの動物たちと素晴らしい関係をつくりあげること、他の子どもたちには決して話さないことを知ったのです。そして最後の晩がきた時、いつもしている事なのですが、子供たちに本を読んで聞かせようとしたのです。それは11月の暗い夜で、みんなで住んでいるビクトリア調風の大きな家の裏庭に行きました。すると、そこにビリーがいて、厩舎の扉のそばにスリッパをはいて立ちまがら、カンテラがつりさげられている下で、話しているのです。馬に向かって話しては、話しては、話しをしているのです。そして馬は、ヒービーという馬ですが、首を突き出して、厩舎の中から首を突き出して、ビリーの話を聞いているのです。その時気付いたのですが、ヒービーの耳はビリーに向けられ、ビリーが話し続けているあいだ自分はそこにいないといけないことを知っていた・・・少なくとも私はヒービーがそのことを知っていることが分かったのです。なぜなら、ビリーは話したくて、ヒービーは聞きたいからです。私はこれは少年と馬の交流なのだと思いました。そこで私は先生方のところに行き、野菜畑の中に連れてきて、そこから陰に隠れて立って、ビリーが話しているのを聞いたのです。先生たちは、一言もしゃべれなかった少年の口から、言葉が流れるように出てくるのを聞き本当に驚いていました。恐怖心が全てどこかに行き、少年と馬のあいだに緊密な関係ができ、互いの信頼が築かれつつあるのを見た私は、心の底から感動し、第1次世界大戦を馬の目からみて、馬に大戦の話をさせる物語を書くことができる、そう書くことができると思いました。その話で兵隊の話を語ろう。イギリス兵、ドイツ兵、そして主人公の馬がいく冬か共に過ごしたフランス人の家族、そして第1次世界大戦でどんな苦しみがあったのかだれにも分かってもらえることができるだろうと。そうして、私はある意味でその小説を書いてみることに賭けることにし、6ヶ月間それこそ馬のように物語を書いたのです。」

別の記事では、モーパーゴはビリーというのはその子供の本当の名前ではないと言っています。モーパーゴは回想します。「この少年が農場でその日にした事を何から何まで馬に話しているのを聞いている時に突然、馬はその子の言葉をすべて理解しているわけはないが、その子のために自分がそこにいることが大事なのだという事を知っているということに気づいたのです。」

退役兵にあった事と、ビリーと馬のヒービーを見た後の3番目のインスピレーションは、モーパーゴの妻クレアがおいたままにしていた古い油絵でした。「その絵は、ものすごく恐ろしく心を不安にさせるような絵でした。壁にかけておきたいと思うような絵ではありませんでした。その絵は、第1次世界大戦で馬が有刺鉄線のフェンスに突撃しているところを描いていたのです。その絵は、私の頭の中から離れませんでした。」その絵は、F・W・リードが1917年に描いたもので、イギリス軍の騎兵隊がドイツ軍に突撃し馬が有刺鉄線に絡まってしまったところを描いていました。ヒントを得たモーパーゴは、『戦火の馬』の前書きでその架空の絵について書いています。
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・・・しかし、少し注意して見れば、ブロンズの額縁についた銅板に、こんな文字が刻まれているのがわかるはずだ。

ジョーイ
ジェームズ・ニコルズ大尉 画 1914年秋

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(『戦火の馬』マイケル・モーパーゴ / 佐藤見果夢 訳 / 評論社 / ISBN978-4-566-02418-2)